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こんにちは、助産師/Yama\です。
今回は私が大学病院で働いていたときの切迫早産の患者様のことについてお話をしていきます。
妊娠すると誰しもが一番リスクがあるのが切迫早産。
切迫早産って「自分には関係ない」と思っている人が多くいらっしゃいます。
妊婦健診の際やお腹の痛み・出血・破水で受診をした際に、先生から安静や入院を宣告されて初めて衝撃、ショック、絶望感を受ける妊婦さんが多く見られます。
私は大学病院で勤務していた際に、他の総合病院や小さな産院、クリニックから搬送されてくる妊婦さんも沢山いらっしゃいました。
総合病院や小さな産院・クリニックで切迫早産と診断されると、NICUのある大きな病院に救急車で搬送されてしまうことがあります。
「なぜ、搬送されるんですか?それも救急車で?」
それは、もし早産となって生まれてしまったときにNICU(新生児集中治療室)という小さく産まれた赤ちゃんを見れる施設で生まれた方が安全だからなんです。
もしもNICUのない施設で早産となってしまった場合、赤ちゃんは保育器に入れられて救急車でNICUのある施設に搬送されます。
赤ちゃんが産まれる前に搬送されるか?
産まれてから搬送されるか?で
産まれてから治療するまでにタイムラグが生じてしまうんです。
もちろん、産まれてすぐにNICUという施設で治療ができた方が赤ちゃんにとって生存率や予後にメリットがあるんです。
そもそもNICUは、施設によって受け入れられる週数が決まっていますが、最高で妊娠22週0日の赤ちゃんから受け入れることができます。
現代の医療でギリギリ生きられる週数です。
約500gの赤ちゃんを見ることができます。
ですので妊娠22週を過ぎた妊婦さんは切迫早産の症状が悪化し産まれそうな場合、NICUのある施設に搬送することが重要なんです。
切迫早産になると、早産になってしまったときの赤ちゃんの予後についても先生から説明を受けることがあります。
その中でも早産になってしまいそうな方は、プレネイタルビジット(出産前小児保健指導)といい、出産前に小児科医に会って、出産後の赤ちゃんの健康や育児について説明・相談する機会がある施設もあります。
そこでは週数に応じた赤ちゃんのことを最悪の事態のお話までするので、ショックを受けたり悲しくなったりすることがあります。
しかし、もしもの時のために最悪なところまで理解しておいてほしいと言うのが目的なんです。
なので妊婦さんだけではなくご家族も一緒にお話を聞いていただきます。
早産で生まれてきた赤ちゃんは体重や週数がそれぞれ違うので、かなり個人差があるのが現状です。
何事もなく元気に育つ子もいれば何かしらのハンデを抱えてしまう子もいます。
妊娠22週〜23週 : 66%
妊娠24週〜25週 : 87%
妊娠26週〜27週 : 94%
妊娠28週〜29週 : 97%
妊娠30週〜31週 : 98%
産まれた時の週数・体重や体の機能の発育状況により、赤ちゃんの状況はかなり個人差があります。
また、呼吸、脳、眼、耳などにもハンデを負ってしまう場合があります。
ですが、NICUの医師や看護師は赤ちゃんのプロです。
早産となってしまっても、皆様お一人お一人の力となれるよう全力でサポートしてくれます。
ですので、赤ちゃんのことはお任せして大丈夫。
早産で出産したお母さんにできることとしては
- 早産の赤ちゃんについて少しずつ知っていくこと
- 母乳が出るようなら搾乳を搾って持っていくこと
- 赤ちゃんの面会に行くこと
で、赤ちゃんは少しずつ保育器の中で成長していきます。
ではそもそも切迫早産って一体どんな状態なんでしょうか?
切迫早産とは、正期産に入っていない段階(妊娠22週0日〜妊娠36週6日)までの時期に、子宮収縮(お腹の張りや下腹部の痛み)、破水、出血などが起きてしまうことを言います。
また、子宮の入り口(子宮頸管長)が短くなってしまったり、開いてしまったりすることも切迫早産の症状になります。
これらが生じることで早産の一歩手前の状態になってしまいます。
では、切迫早産はどのような治療法が行われるのでしょうか。
①自宅安静
②入院による安静
③張り止め(ウテメリン、リトドリン)の内服
④張り止め(ウテメリン、リトドリン)の持続点滴
が挙げられます。
施設によっては膣内の洗浄や膣錠の挿入などを行っています。
子宮の入り口の長さを“子宮頸管長”といいます。
妊婦健診の内診のタイミングや、お腹の張りや痛み、破水感や出血を自覚して受診したときに経膣エコーで確認します。
私が見てきた中では基本的に、子宮頸管長が25〜30mmよりも短い場合や自宅安静でも短くなってしまう場合は入院を勧められる傾向にあります。
治療法の中で張り止めの内服や点滴があります。
リトドリンやウテメリンという薬剤が使用されます。
内服の場合は1日3回か1日4回の内服をします。
点滴の場合は切迫早産の症状が落ち着くまでずっと持続の点滴を行います。
リトドリンやウテメリンの副作用としては、
動悸(ドキドキ感)、頻脈、ほてり、指や手のふるえ、頭痛、頭重感、めまい、ふらつき、吐き気を自覚することが多くあります。
また、注意が必要な副作用としては、横紋筋融解症 、 筋肉痛 、 脱力感 、 CK上昇 、 CPK上昇 、 血中ミオグロビン上昇 、 尿中ミオグロビン上昇 、 汎血球減少 、 血清カリウム値低下 、 高血糖などがあり、適宜採血をしながら確認しています。
切迫早産の症状が強い人はリトドリンの点滴の量を増やしながら治療していきます。
リトドリンやウテメリンの点滴の量がMAX量に達しても切迫早産の症状が治らない場合やリトドリンやウテメリンが使用できない場合はマグセントという点滴でマグネシウム製剤を使用する場合があります。
マグセント(マグネシウム製剤)は子宮収縮を抑制する目的で使用されます。
マグネシウム中毒に注意しながら投与されます。
体のマグネシウム量を採血で確認したりします。
副作用として、マグネシウム中毒である眼瞼下垂、膝蓋腱反射の消失、筋緊張低下、心電図異常(房室ブロック、伝導障害)、呼吸数低下、呼吸困難などがあります。他にも熱感や倦怠感の副作用が多くみられます。
リトドリンやウテメリン、マグネシウム製剤を使用するとほてりや熱感がほとんどの方に現れます。
施設ではアイスノンを貸りられるはずなので、そういうもので乗り越えている方がほとんどです‼︎
◎よくある点滴のトラブル◎
持続点滴の針は点滴を指す時のみ針を入れるため、点滴の針が入れば針を抜いてチューブだけ血管内に残る形になります。なので腕を曲げてもOKなんです。
点滴はどこの病院も感染予防のために3〜7日で点滴の針を交換しなければならないことが多いです。そのため点滴の針が入りやすい血管がない人はかなり苦労します。
また入院がながくなると点滴が漏れてきて、赤く腫れたり痛くなったり硬くなったりなどが起こるのでこのような時も点滴の針を交換します。
持続点滴をしている方は、シャワーに入ることすらも安静を目的に毎日入れない施設が多くあります。
お腹の張りが多い時はもちろん入れません。
破水や出血が多い方も入れません。
隔日〜2-3日に1回のシャワー浴の施設が多いです。
その間は体拭きの温タオルがもらえるはずです。
破水をしている方は2〜3日に1回の洗髪や足湯を行なっている施設が多いです。
破水をしてシャワーに入るのは子宮内への感染上良くないとされています。
シャワーに入るのすらも制限されてしまうんです。
シャワーに入れる時は点滴を一時的に止めてビニールで保護して入る施設が多いですよ‼︎
切迫早産の妊婦さんに対し、リトドリン(ウテメリン)の持続点滴により長期の入院を行なっているのは、世界でみても日本だけなのです。リトドリン(ウテメリン)については48時間までの妊娠延長効果しかないことや、新生児の予後からみると使用した人と使用していない人で全く差がないことが最近の研究で知られています。日本では様々な病院で、切迫早産の妊婦さんが持続点滴を行い長期入院している光景があたりまえなので、リトドリン(ウテメリン)は有効で周産期医療に必要不可欠な薬のように思いこまされていますが、思い込みや誤解に過ぎないのかもしれません。
私自身も都内の病院で働いていたときに、この最新の治療をしていましたが、産まれてしまった人は居ませんでした。
この考え方が早く広まって長期入院を避けられれば、妊婦さんの負担も減るのになあと思いながら働くこの頃です。
入院施設により様々ですが一般的なものをご紹介します。
- 母子手帳
- 診察券
- 健康保険証
- 現金・クレジットカード
- 筆記用具
- 印鑑・朱肉(入院手続きなどで必要です)
- ティッシュ(ウエットティッシュ)
- タオル(レンタルセットがある施設もあります)
- スリッパ(内履きであればクロックスなどてもOK)
- パジャマ(前開きタイプが着替えやすいです、レンタルのある施設もあります)
- 羽織もの(季節によりあると便利)
- 下着
- 歯ブラシ・歯磨き粉・コップ
- シャンプー・リンス・ボディソープ
- ボディシート
- 基礎化粧品
- 鏡
- ナプキン・おりものシート
- コンタクト・メガネ(必要な方のみ)
- スマートフォン、充電器
- 延長コード(ベッド周りは意外とコンセントが少なかったりするのであると便利)
- イヤホン(大部屋の場合、イヤホンがないとテレビが見れなかったり…)
- ポケットWi-Fi(施設にWi-Fiがある施設もあります)
- クッション、抱き枕(お腹が大きくなってくるとあると便利です)
- 洗濯洗剤(洗濯機のある施設のみ)
- ハンガー(タオルや濡れたものなどを掛けるのに便利)
- 荷物持ち帰り用の紙袋やバッグ(ご家族に荷物を持って帰ってもらう時に便利)
- 小物入れ(施設のテーブルは意外と小さいので整理整頓するのに便利)
“子宮頸管長”
切迫早産を経験された方なら誰しもが知っているワードです。子宮頸管の長さを確認することで切迫早産が進行しているかどうかがわかります。
一般的な子宮頸管の長さは35~40mmです。
個人差もあるので50mmぐらいある方も居ます。
妊娠24週での子宮頸管長の平均は約35mm以上ですが、25mm未満の場合、早産となるリスクは短縮のない人に比べると約6倍、13mm以下では約14倍と言われています。
また元々子宮頸管が短い、子宮頸管の円錐切除術を受けたことのある方や、頸管無力症、前回の早産既往がある方は切迫早産のリスクファクターとも言えます。
子宮頸管が短くなる主な原因の一つに、細菌感染による炎症があります。
妊娠中のお母さんの体は赤ちゃんを異物とみなさないようにするために、免疫力が低下しています。そのため、さまざまな菌が侵入しやすい状態となるので細菌性腟炎などの炎症を起こしやすくなっています。そのまま細菌が増殖して、炎症が子宮頸管に沿って進むと、“子宮頸管炎”や赤ちゃんを包む膜まで炎症が進んでしまうと“絨毛膜羊膜炎(じゅうもうまくようまくえん)”になってしまうことがあります。これらの炎症の結果、子宮頸管が短く、やわらかくなることで早産のリスクが高くなります。
▶︎子宮頸管炎
子宮頸管に最近感染やなんらかの刺激により炎症が起きてしまうこと。
▶︎絨毛膜羊膜炎
絨毛膜と羊膜という赤ちゃんを包む膜に細菌が感染して起こります。
▶︎子宮頸管無力症
妊娠初期〜中期の時期に子宮頸管の長さが25mmを切って短くなっている場合です。子宮の入り口がまだ閉じていなければならない時期に、お腹の張りの自覚や子宮収縮がないまま、子宮口が開いてしまうことがあります。そのままにしておくと早産・流産の恐れもあります。赤ちゃんの成長が未熟な妊娠16~28週に発覚することが多くあります。また前回の妊娠で流産や早産がある場合、頸管無力症を疑う場合は妊娠中期の早い段階で、子宮の入り口を糸で縛り流産や早産を予防するための処置を行います。
▶︎funneling:ファネリング(内子宮口の開大)
早産しそうな初期の子宮頚管の異常として、もう一つ、内子宮口の開大(funnelingファネリング)という所見があります。子宮頚管は内子宮口(赤ちゃん側の子宮頚部)から外子宮口(膣側の子宮頚部)までで、妊娠中は閉じていなければなりません。この内子宮口の部分が開き始めることがあり、その様子が経腟超音波検査でわかります。ファネリングは絨毛膜羊膜炎や頚管無力症など、早産の初期段階の兆候であり、早めに発見できれば、早産を未然に防ぐことが可能となります。子宮頸管長を見る時に必ずチェックしています。
治療法の話に戻りますが…
切迫早産の一番の治療法は安静です。
なるべく横になり、お腹に力を入れるなどの動作を少なくします。
トイレに行く、洗面をするなどは大丈夫ですが、
自宅安静の場合、おもいきり家事を行なったり、上の子と体を動かして一緒に遊んだりするのは避けましょう。
◎切迫早産での入院中の過ごし方◎
入院中の基本的なスケジュール
6:00〜7:00 検温や問診
8:00 朝食
9:00 診察
10:00 検温・NST(赤ちゃんの心拍とお腹の張りをチェックします)
12:00 昼食
13:00〜14:00 検温・NST(必要時)
シャワーなどは空いている時間に入ります。
18:00 夕食
19:00 検温・NST(必要時)
21:00 消灯
時間は前後しますがどの施設も日々の日課はこんな感じです。
NSTとは、お腹に丸い機械を2つ付けて赤ちゃんの心拍とお腹の張り(子宮収縮)を見て、切迫早産の兆候を確認するためのものです。
無意識のうちにお腹が張っていたりするとこのNSTで発見することができます。
医師や助産師にお腹の張りの自覚とNSTでの張りについて確認されます。
自覚があるのかないのか、痛みがあるのかないのかを詳しく伝えられると治療法の参考になります。
安静になると暇な時間ができてしまい、いいことわるいこと考えてしまうものです。
切迫早産で入院中に妊婦さんがやっている時間の使い方について、私が見てきたものを含めご紹介します。
・動画やネットフィリックス、漫画などを見る
・ゲーム(動物の森をやっている人が多かった!)
・リモートワーク
・赤ちゃんのおもちゃや洋服作り
・編み物
・ネットで育児用品を買う
・日記をつける
・赤ちゃんのエコー写真のアルバムをつくる
・読書
・クロスワードパズル
・出産や育児の勉強
・資格習得のための勉強
などをやっている人が居ました。
寝ているだけでつまんない…と思いますが、時間の使い方を上手く行っている方もいます‼︎
これを機に普段忙しくてできないことで、安静にしていてもできることならやってみるのもいいですよね。
自分は健康な身体なのに、子宮頸管だけが短くなってしまう。
なぜ安静にしていなくてはいけないのか、わからなくなるものです。
閉鎖的な病院の中で制限のある生活。
家族にも会えない。
数週間で退院できる人も居れば出産まで入院コースの人も居ます。
ですが全ては元気な赤ちゃんを産むために繋がっています。
1日1日がお腹の中での赤ちゃんの成長につながります。
退院できるならラッキー!な気持ちで居ましょう。
入院中のお家のことはご家族に協力してもらいましょう。
切迫早産の入院は早産を防ぐための入院であり、生まれてくるお子様の未来やご家族の未来に繋がっているんです。
小さく早く産んでハンデを負ってしまったら、生まれてくるお子様や、そのご家族がその先もずっと付き合わなければなりません。
辛い入院生活かもしれませんが、赤ちゃんの生まれる時期は人生にとって大切なことなので、一つ一つ乗り越えて一緒に頑張りましょう。
また、もしも早産となってしまっても自分を責めないでください。
ここまでよく頑張ったんだと褒めてあげてください。
赤ちゃんもお母さんも共に頑張ったんです。
今はNICUという素晴らしい施設があります。
そこで一緒に育てていけばいいんです。
わたしは切迫早産の方によくこのように声を掛けます。
切迫早産についていろいろ考えていても、良くなるかどうかは正直わかりません。
治療をして子宮頸管長が伸びる人も居れば、ゆっくり早産が進んでしまう人も居ます。
早く帰りたいのはみんな一緒。
ここは生まれてくる赤ちゃんのため、ご家族の未来のためだと思って、ぐっとこらえて頑張りましょう。
退院したらやりたいことを考えて楽しみを作りましょうと。
一緒に出産や退院までのカウントダウンをしたりします。
また、早産となってしまったり、出産まで入院となってしまった方がいたら、
退院したら、
退院祝い、出産祝い、頑張ったご褒美を
ご家族にしてもらいましょう。
ご家族さんもあなたが居なくて寂しかったはず。
みんなで盛大にお祝いしてください。
結局のところ…切迫早産の予防法は
切迫早産の症状に早く気がつくことが一番の近道だと思います。
時々お腹に手を触れてみてください。
お腹が硬くなっていませんか?
キューっとする感じや重い感じはありませんか?
お腹の張りに早く気がつくことが大切です。
出血や破水感があった時も早めにかかりつけの産院に連絡しましょう。
早めに病院かかることで、症状の悪化を防ぎ、切迫早産の予防ができます。
また入院とまではいかず自宅安静で済む場合もあります。
入院中の人は夜間でも起きてしまうようなお腹の張りを自覚したり出血や破水などがあればすぐにナースコールをしましょう。
切迫早産の症状があるときは、
早めに仕事を休んで安静にすることが大切です。
入院中の方も早めにわかれば張り止めの薬の量を増やしたりすることで症状を抑えることもできます。
切迫早産って実はまだまだわかっていないことがいっぱいあるようで…
研究段階なことも多いんです。
○○をすれば早産となる確率が低いとか…断言できないことも沢山あります。
入院が嫌で、先生の助言を押し切って退院しても、早産になる人もいればならない人もいるのが現状なんです。
なんだかもどかしいんですよね。
働いていてもいつももどかしいんです。
妊娠の身体って難しいことがたくさん!
でも今わかっていることを理解しておけば、今の医療で適切な予防方法が取れます。
妊娠中、辛いこと、頑張らなきゃ行けないことたくさんあるかと思います。
一つ一つ乗り越えて、元気な愛おしい赤ちゃんに会いませんか?
その瞬間のために、私たちは日々サポートしています。
辛くなったら弱音吐いてもいいんです。
時には泣きたくなることだってあります。
わたし達はお話ならいくらでも聞けます。
是非辛いこと口に出してみてください。
今のもやもやがスッキリするかもしれません。
皆様が幸せな妊娠・出産・育児ができますよう、日々応援しております。
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